1931年に貼箱や化粧箱をメインに製造する会社として札幌市で立ち上がった「北海紙工社」。厚さ、色、硬さ、質感などたくさんの種類がある紙を貼り合わせたり、箔を押したり、様々な形に切り抜いたり「紙工(しこう)」という加工技術と独自のデザインで多種多様な商品を作り出す北海道の老舗紙工会社です。
機械設備はお菓子の箱の展開図や雑誌の応募ハガキの切り取りミシンなど様々な形を実現する打抜機、紙と紙を貼り合わせる合紙機、熱と圧力で金属フィルムの箔を転写する箔押し機などが稼働しています。設備を整え工場を大きくするたびに札幌市の中心部から郊外へ移転し、2003年から現在の石狩市へ。今回は実際に工場を訪れ梅田 修平さんにお話を伺いました。
オリジナルブランド「ほっかいしこう社」
オリジナルブランド「ほっかいしこう社」は、現社長のご子息である梅田さんが立ち上げました。東京で印刷通販や映像制作に携わる仕事などをしていましたが、2015年に家業を継ぐため北海道へ戻ってきました。それまでの北海紙工社はほとんどのクライアントは印刷会社で、すでに仕様の決まった依頼を受けて職人さんが作る下請けの仕事がほとんど。何を作るのか決めるところから始めなければいけないオリジナルブランドを立ち上げるのはまったく新しい挑戦でした。
実際に工場をのぞくともくもくと機械を動かす職人さんたちが。機械があるとはいえ、人の目や手はまだまだ必要。新しいことにも古いことにも一つ一つ丁寧に向き合って作業されているのが印象的でした。
工場は梅田さんにとっては小さい頃からの遊び場で、走り回ったり職人さんに遊んでもらったりしていたと言います。大人になって戻ってくると職人さんたちの技術の高さが理解できるように。この技術を活かして商品を作ることができないかと考え始めました。
そして2018年、初めて会う方に読み間違えられることの多い社名を正しく読んでもらえるように、わかりづらくマニアックな紙工のイメージを柔らかくするためにあえて平仮名で「ほっかいしこう社」と名付けたブランドが生まれます。その最初の商品が、「北海道ポストカード」シリーズ。ホッキョクグマや鮭をくわえた木彫りのクマ、山岳や流氷など、たとえ言語が通じなくても北海道のモチーフだとわかるようなデザイン性の高いものが完成しました。デザインは札幌を拠点に全国区で活躍するグラフィックデザイナーの川尻竜一さんが手掛けています。
手に持ってみるとペラペラの紙のイメージを裏切るしっかりした感触に驚きます。風合いの良い薄紙としっかりした厚紙をニカワというパリッと固まる糊で貼り合わせているからこそです。他にもじっくり見ると様々な紙工の技術が隠れています。もちろん、実際に120円切手(定形外)を貼ってポスト投函できるポストカードとしても使えます!郵便受けにこのポストカードが届いたら、とっても嬉しいサプライズになりそうですね。「北海道ポストカード」は、手にした人に驚きや感動を与える紙製商品に贈られる「第二回紙もの大賞(2019)」において、手紙部門の大賞を受賞しています。
印刷関連会社4社が集まったチーム「北紙道(ほっかみどう)」
北海道にある印刷関連会社の中で、自社の技術力を活かしオリジナルの“紙もの“商品を展開している4社が集まり「北紙道(ほっかみどう)」として北海道の印刷業界を盛り上げる活動をしようと呼びかけたのも梅田さん。「横のつながりが薄く、仕様書のやりとり以外はほとんど交流がなかった。この業界は大きい市場じゃないし、それぞれが点で発信するだけでなくみんなで集まって大きい面でやった方が北海道の印刷業界と“紙もの”のシーンが盛り上がるのではと思って。」とのことです。
コロナ禍で、オンラインイベントに共同で出展することから始まり、共同での商品制作などを通して発信を始めました。確かな技術と様々なクリエイターのちからで作られた商品はすぐさま評判を呼び、現在では北海道の“紙もの”といえば北紙道として全国からイベントへの出展依頼が相次いでいます。
紙の持つポテンシャル、そして紙工の技術。一個の製品にも愛着をもって良品を製造するという社訓のもと、もの作りとその楽しさを発信しています。そして業界の盛り上げにも尽力する「ほっかいしこう社」の活躍が楽しみです。