蝦夷和紙工房 紙びより(札幌市)さんを訪問してきました。

札幌市厚別区の閑静な住宅街の中に、「蝦夷和紙工房 紙びより」はあります。
JR森林公園駅から徒歩5分ほどの距離の古民家を工房にし、北海道出身の和紙職人 東野 早奈絵(とうの さなえ)さんが、2012年から植物採取から紙すき、商品企画やパッケージ、イベントでの販売、ワークショップの計画と実施など全てをおひとりで行っています。

今回は工房にお邪魔し、北海道の植物を使って大変希少な和紙を作っている東野さんにお話を伺ってきました。

和紙ができるまで

和紙といえば古くから原料には、楮(こうぞ)、みつまた、雁皮(雁皮)が使用されてきました。これらの植物は日照を好む陽性であることから、比較的温暖な地域で栽培されており、和紙の産地としては本美濃紙の岐阜県や土佐和紙の高知県などが有名です。

東野さん曰く、文献を調べるとかつて北海道の地へ大量の楮を移植したという記録が残っているそうですが、現在北海道の地で楮が生育しているという地は聞いたことはないそうで、気候的に北海道は和紙の生産に不向きであったことが伺えます。

伝統的に使われてきた原料が手に入らない環境の中で、東野さんは北海道ならではの植物に注目。それらを主に使用した魅力的な和紙作りを始めました。まずは自ら車を走らせて道内を巡り、ヤマグワ、オヒョウニレ、フキといった植物を採取。工房に持ち帰って樹皮をはいだり水にさらしたり適度な大きさに裁断したりしたあと鍋で煮熟し、あくを取り除いて、小さなチリを取り除き、叩解(こうかい)と言われる作業で繊維をほぐしていきます。植物から皮を取り除く作業だけでも気の遠くなるような時間を要するそうです。
ここまでの時点でまだ原料段階のお話。和紙の象徴的な作業である「紙漉き」にいくまでにどれだけの時間がかかっているのだろうと想像すると思わず唸ってしまいました。

それからようやく紙漉きの工程へ。よく和紙を漉いている際に使われているこの道具は「簾桁(すけた)」と言うそうで、実際の漉き作業の時には一面に水が張っていてかなりの重作業に。そして、ここでの作業が和紙の出来に関わってくるそうで、やはり重要なのだとか。
漉いた和紙は次に大きな木の台、紙の寝床に1枚1枚乗せていき、50枚100枚と積み重ねて板で挟み、水を絞ります。

水を絞った和紙は、1枚ずつ鉄板乾燥機で乾燥させたら完成です。
紙を漉くところから乾燥させるまで大体1〜2週間。採取からあわせると膨大な時間を要して1枚の和紙ができていることに驚きを隠せません。

北海道の人にも和紙の魅力を伝えたい

「もともと物を作ることが好きだったことと、植物が好きで理科の先生をしていたこともあったので、そのどちらの要素も合わせ持った和紙を作ることはとてもやりがいを感じます。ものづくりのよさ、何より和紙の魅力を北海道の方たちに知ってもらいたいのです。」と素敵な笑顔でお話してくださる東野さん。
蝦夷和紙についても尋ねてみると、「最初は思ったような出来にならなくて、失敗ばかりと感じていました。ある日、人に見せたら、ダイナミックな色合いや風合いが北海道らしいねと言われてハッとしたんです。北海道の植物が出す濃い色合いや繊維の感じも素材が持つ良さなんだと思えました。まだ試行錯誤で毎回違う表情のものができるのですが、それも楽しみなところですし、北海道らしい表情の和紙も広めていきたいです。」

私たちがお話を聞いたショップ内には確かに様々な風合いの和紙を使った雑貨やインテリアたちが温かで心躍るような楽しい雰囲気を纏っていました。和紙ならではのぬくもりを感じられる雑貨達、ぜひ一度お手に取ってみてはいかがでしょうか。

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