株式会社イチムラ(江別市)さんを訪問してきました。

みんなの記憶に残り続ける学校家具

一目見ればだいたいの人が「ああ、懐かしい!」と記憶を蘇らせることでしょう。

「学校家具」その分野のものづくりを常にリードしてきたイチムラさん。約60年以上もの間、主に北海道の学校家具を製造し、子どもたちを支え見守ってきました。学校椅子第1号の復刻版が、札幌スタイルの認証製品にもなりました。札幌のお隣、江別市にあるイチムラさんの本社・工場を訪れ、お話しをお伺いしてきました。

昭和28年、テレビ放送が開始され、戦後復興が最盛期を迎えた頃、札幌で創業したイチムラさん。当初は鉄工製作所として鉄製品を製造することが主でした。機械修理やねじ切り加工、次第に部品下請けや半製品を生産するようになっていきます。

「木でできた重たい椅子。耐久性も低く、こどもの力では持ち運びも大変だったようで」

当時木製品しか無かった学校用イスの安全性と軽量化を目指して、北海道で初めて鉄と木で製作した学校用椅子づくりに取り組みます。当時の学校家具に、風穴をあけるイチムラさんの取り組み。積み上げてきた鉄工の技術と新たな木工技術の組み合わせで製品開発に臨んでいる中で、学校製品の開発に力点を切り替えていくのです。

学校家具の開発を進化させ、北海道内のみならずイチムラの製品は羽ばたき「学校の机と椅子と言えばイチムラ」と言われるほど、業界をリードする存在になっていきます。

丁寧に手作業を重ねる「品質重視」の企業姿勢

古くからの技術と革新的な技術との掛け合わせで、よりいいものを

つかう人たちへ 安心と安全を届ける

鉄工から木工へ 今では鉄も木も折り紙つき

「A-100」の復刻 そして札幌スタイル認証製品へ

学校家具の開発を進める中、イチムラの学童椅子第1号として誕生したのが「A-100」という椅子。イチムラのものづくりへの想いや製品はこの「A-100」が原点となっています。

そこから「学校家具のイチムラ」としてその名を馳せるようなり、その分野でのシェアも拡大。イチムラは、約60年以上もの間、主に北海道の学校家具を製造し、子どもたちを支え見守ってきました。そんな中、百貨店での展示出店など一般のお客様への販路を築いていわけですが、百貨店に並ぶ販売家具に混じり、製造開始当時の椅子を展示していたところ「ぜひ、この椅子を復刻させてほしい」「この懐かしい椅子は家庭でも好まれるはず」とのお客様の声。

今一度、自分たちの原点に立ち返り、今度は学校という環境を飛び出してお客様の支えになるような、製品を届けたい。そんな思いで、このA-100の復刻版製造に動き出します。

軽さや機能性を求め時代を追うごとに、木製だった部分もプラスチック製部品になっていることもあり、まさに当時の椅子は一脚だけになってしまっていました。もちろん設計図は残っていません。

「なかなか骨の折れる作業でしたよ」

復刻版の製造に向けて、設計部チームリーダーの太田さんはその残った一脚の実寸を手作業で計測し、設計図を起こしていきます。当時の金型や部品もなく、製造現場のメンバーのみなさんとの手探りでの試行錯誤を重ね、様々な壁にぶつかることもありながら、構想から3年。見事「A-100」は復刻されるのです。

この「A-100」はまさに「学校家具のイチムラ」であることの原点。この製品の復刻を叶え、今一度原点に立ち返り、さらなる飛躍を期するきっかけになるわけです。

新たなチャレンジ [鉄フェチ女子]!?

学校家具のイチムラから、学校以外の施設にも家具を提供する企業となり、施設の空間づくりでの実績と信頼を重ねていく中、新たな挑戦を試みています。磨かれてきた技術や蓄積された知識を活用すると共に、より「鉄」という材料をも活かせる商品づくりです。

社内にいた「鉄フェチ女子」。その女子社員の存在をきっかけに、鉄の良さをもっと広く知ってもらいたいとプロジェクトははじまります。

鉄を裁断する技術と、鉄を曲げる技術。鉄とつきあう中で、それらを存分に活かした製品開発。

中心となるのは「鉄フェチ女子」のひとりである亀梨亜弥華さん。彼女は、学生時代に建築設計・空間デザインを勉強していたそう。ものづくりが好きで、将来的には空間づくりを手掛けられる仕事をしたいと思っていた就職活動中。これからの自分の働く姿を考える中で、どうしてもパソコンに向かって仕事を続ける自分のことがイメージできず、工場を持ちものづくりを推進するイチムラさんに就職したという。

とは言え、どうやらもともと興味があったのは木製のもの。入社してから、彼女は鉄の加工の奥深さに魅了されていくのです。

インダストリアルデザインなど鉄の魅力を発揮する場面はあれど、生活の中では「鉄製品」というのはまだまだ馴染みにくいな、そう感じている彼女。「その価値を上げたい」「可能性をもっと知ってもらいたい」と思いながら「鉄フェチ女子」という看板を背負っている。

鉄がまるで紙のように

何かでつくられたこちらのフラワーベース。なんと、一枚の鉄の板から作られています。

「鉄フェチ女子」が手掛けるこの新たなプロジェクトは<fem-26 (フェム ニーロク)>と名付けられ前に進んでいます。由来は鉄の元素記号「Fe:鉄」と、女性を意味する「feminine」を掛け合わせた造語で、“26”はFeの元素記号の順番から。鉄と女性の取り組みが化学反応を起こし、価値が高まって行くことを望んでのネーミングです。

そしてこの<fem-26>がはじめて挑むプロダクトは[plie(プリエ)]シリーズ。鉄をまるで紙のように切ったり折ったりしながら、生活に溶け込む雑貨小物を開発しています。plieはフランス語で「折る」という言葉。鉄がしなやかに折られてかたちづけられていく姿を表現しています。

鉄というと、ひょっとしたら冷たいイメージがあるかもしれません。
この[plie]シリーズでは、鉄を折っていくことによって、軽やかにそしてあたたかな雰囲気を出せるか、おうちに溶け込むデザインをどう出していけるか。そんなことに力を入れています。

こうして鉄の魅力が広がっていき、鉄にも新たな活躍の場所を、そして一般の方にも新たなものの価値を感じてもらえたらと、このプロジェクトは進んでいきます。

イチムラだからできること 安心の「イチムラ品質」

「新しいことに挑戦するのは、やはり苦労の絶えないことだと」太田さんはお話しされます。新しいものにチャレンジしたい企画側と、実際に製造にあたる現場では意見が合わないこともしばしば。ただ、ひとつひとつものづくりが進んでいく中で、新たな取り組みの価値を共有し続けてきました。その苦労があったからこその、ステップアップ。「イチムラ品質」をもっともっと伝えていくために、まだまだ挑戦は続いていきます。

「学校家具のイチムラ」という顔がある信頼感と、それを飛躍させる「学校家具のイチムラからの脱却」

施設にある大きな製品も、家庭にある小さな小物も。

『空間をよくするあらゆるものが、気が付けば「実はこれ、あのイチムラさんの!」』というところを目指していきたいと企画室の佐藤愛さんはおっしゃります。今後も私たちの身の回りには「実は!」なイチムラさんの製品が増え、私たちを楽しませてくれそうですね。鉄工場から始まり、こどもに安心と安全を届けるために学校家具の製造を始め、北海道のこどもたちの記憶に染み込む椅子や机を送りだしてきたイチムラさん。それはひとえに「ともに未来を思い、描く」という企業理念をまっとうしてきたからなのでしょう。

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